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東京地方裁判所 昭和53年(ワ)6949号 判決

原告

村山頼彦

右訴訟代理人

江藤鉄兵

被告

株式会社アイワコンサルタント

右代表者

大澤壮吉

右訴訟代理人

藤本勝哉

主文

一  被告の昭和五二年一二月一二日開催の定時株主総会における取締役として長峰駿一郎、相本敏衛及び大澤壮吉を、監査役として鈴木秀男をそれぞれ選任する旨の決議が不存在であることを確認する。

二  訴訟費用は、被告の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判〈省略〉

第二  当事者の主張

(請求原因)

一 被告は、昭和四四年四月一七日、土木及び建築構造物の調査計画、設計、測量などを目的として設立された株式会社であり、原告は、被告の株主かつ取締役である。

二 被告は、昭和五二年一二月一二日開催の定時株主総会(以下「本件総会」という。)において、取締役として長峰駿一郎(以下「長峰」という。)、相本敏衛及び大澤壮吉(以下「大澤」という。)を、監査役として鈴木秀男をそれぞれ選任する旨の決議(以下「本件決議」という。)をしたとして、昭和五三年一月一〇日その旨の登記をした。

三 しかし、本件総会は開催されておらず、本件決議は不存在であるから、原告は、被告に対し、本件決議が不存在である旨の確認を求める。〈以下、事実省略〉

理由

一請求原因一項及び二項の事実は、当事者間に争いがない。

二そこで、被告の抗弁について判断する。

1  〈証拠〉を総合すると、次の事実が認められ〈る。〉

(一)  昭和五一年一一月三〇日ころ当時、被告の発行済株式総数六〇〇〇株のうち、原告が二七〇〇株、株式会社シビル・エンジニアーズ(代表者後藤寛次)が一二〇〇株、加園一憲が五〇〇株、株式会社ドーム(代表者成瀬嶺雄)及び原告の妻村山千代子が各四〇〇株、後藤八郎、栗田武治、永野修身及び米田隆が各二〇〇株を所有していた。

(二)  昭和五一年一一月三〇日、当時被告の代表取締役であつた原告は、被告の運転資金を調達するため、以前金員を借用した酒井に資金の借用方を依頼したところ、酒井から担保として原告所有の被告の株式の預託を要求されたので、これを承諾して、酒井にいわれるまま、株式三二〇〇株を無償で酒井に譲渡する旨の株式譲渡書を作成の上酒井に交付するとともに、当時、被告の金庫に保管していた株券番号も付されていない未発行の六〇〇〇株分の未完成株券を、預託の趣旨で、一括して酒井に交付した。

(三)  その後同年一二月一二日になつて、原告は、以前酒井から金員を借用する際に酒井に預けていた被告の印鑑等を返却してもらうべく、東京都港区新橋三丁目五番一三号所在の全日本酒類販売の事務所に赴いたところ、同所にて、酒井から、今後被告に融資するためにも株主総会を開いて取締役を選任すべきであるといわれ、その所有の株式のうち、大澤に一〇株、長峰に一〇〇株、全日本酒類販売に二株をそれぞれ譲渡した。そして、本件総会は、何らの招集手続もとることなく開催され、酒井の指導の下、右原告らだけで本件決議をした。

(四)  被告の定款上、被告の株式を譲渡するには事前に被告の取締役会の承認を要する旨の規定があるところ、原告から大澤、長峰及び全日本酒類販売へのその所有の株式を譲渡するに当つては、被告の取締役会の事前の承認はなかつた。

以上の事実が認められる。

ところで、〈証拠〉によれば、酒井は、昭和五一年一一月三〇日、原告からその所有する被告の発行済株式総数六〇〇〇株の全株を譲り受けた旨の供述があり、同趣旨の証拠として、証人長峰駿一郎の証言及び被告代表者本人尋問の結果があるが、右に認定したとおり、原告と酒井との間では被告の発行済株式総数六〇〇〇株のうち三二〇〇株についての譲渡書が作成されていること、〈証拠〉によれば、本件総会における出席株数は三六〇〇株とされていたこと及び右認定の原告が被告の未発行株券を一括して酒井に手渡した経緯などからすると、右各証言内容は到底採用することができない。

そこで、右認定事実によれば、被告の発行済株式の全株を原告のみが所有するものでないことは明らかであるから、被告の発行済株式の全株を原告が所有していることを前提とする被告の主張は、その余の点について判断するまでもなく理由がないことになる。しかも、被告は、酒井が原告からその保管していた被告の株券の交付を受けることにより被告の発行済株式の全株を商法二二九条及び小切手法二一条の規定に基づき善意取得した旨主張するが、右に認定したとおり、原告が酒井に交付した被告の株券は、被告の株主に未発行の未完成株券であるから、有効な株券とはいえず、しかも、右認定のとおり、原告が酒井に未完成の被告の株券を一括して手渡したのは、原告が所有する被告の株券を譲渡する趣旨ではなく、単に原告が酒井から借受ける金員の担保のために、被告の未完成株券を預託する趣旨であつたというのであるから、いずれにしても、右各法条の規定に基づく善意取得は成立しないといわなければならない。

そうすると、右に認定したとおり、原告から大澤、長峰及び全日本酒類販売への株式譲渡は、これについて被告の定款に定める取締役会の事前の承認が認められない以上、被告に対して効力を生じないので、結局、本件総会に出席した株主は原告一人であり、本件総会における出席株式数は、被告の発行済株式総数六〇〇〇株のうちの二七〇〇株にすぎないことになる。しかも、右に認定したとおり、本件総会開催については何らの招集手続もとられていないのであるから、いずれにしても本件総会は不存在というべきであり、本件決議も不存在といわなければならない。

2  被告は、被告の代表取締役として本件総会を招集した上、本件総会に出席して本件決議に参加した原告が本訴を提起して本件総会及び本件決議の不存在を主張することは、禁反言に反し、信義則上許されない旨主張するが、前記認定事実によれば、本件総会を開催して本件決議をさせたのは専ら酒井であるから、原告が本件総会及び本件決議の不存在を主張することは何ら禁反言に反するものでもなく、信義則上許されないものではないと解するのが相当ではないと解するのが相当である。被告の右抗弁も理由がない。

三以上のとおり、本件総会及び本件決議は不存在であるから、本件決議の不存在確認を求める本訴請求は理由があるとしてこれを認容することとし、訴訟費用の負担については民事訴訟法八九条を適用して主文のとおり判決する。

(井上弘幸)

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